経営革新のはじめの一歩は「捨てる」ことだった。
保治と義己は2つの「捨てる」条件を作って、それに適合したものはどんなものであろうと捨てた。

「会社の利益に関与していないもの」

「6ヶ月間使用していないもの」

その中には、購入当時1,000万円を掛けて導入したコンピューターや、先代の時代から使っていた古い機器類も多く含まれていた。
創業以来、先代社長とともに枚岡合金工具の礎を築いてきた旋盤機械が、廃棄業者のトラックに積み込まれる。
先代が、その様子を寂しそうに見送っていた。

会社は保治と義己に譲ったのだ。彼らが決断したのなら文句は言うまい。
先代の背中はそう語っているように見えた。

「なんぼなんでも、ちょっとやり過ぎと違いますか?」

創業時代から勤めている社員の一人がつぶやいた。
彼にとっても、戦友のような機械が処分されるのは辛かったのだろう。
それはもちろん、保治と義己にとっても同じだった。
先代社長であると同時に、自分たちの父親である。
幼い頃から追いかけてきた父の背中が、この時ほど小さく見えたことはなかった。

しかし……

枚岡合金工具は変わらなければならない。
そのためには、経営者自らが「やるならとことん」やらねばならないのだ。
保治と義己は、心の中で親父に詫びつつ、経営革新に向けての不屈の決意を固めた。

次に二人が取り組んだのは、社内から不要なものをなくすことだった。
一見、「捨てる」ことと同じように思えるが、「捨てる」だけでは無駄がなくならない。

「今日から、ボールペン置き場はここや。ハサミはここ。使ったら、元の場所に戻すこと」

オフィスの机の中から個人所有の備品をなくし、全てを共有化して棚に置くことにした。

「文房具屋みたいですなァ」