「まず最初に言うときます。今のままやと、5年後、あなた方の会社は消えてなくなります」

大阪府リエンジニアリング研究会のキックオフの冒頭、経営コンサルタントははっきりとした口調で皆にこう言い放った。

「あなた方の会社だけやありません。大阪の町工場は半分になってしまうでしょう」

その場に居合わせた一同が息を飲み込むのが、保治にはわかった。
彼に言われるまでもなく、ここに集まった経営者たちは皆、その不安と危惧を抱いている。

だからこそ、この場に集まったのだ。
しかし、他人の口から面と向かって言われると現実感が否応なしに襲ってくる。しかも5年後という具体的なタイムリミットまで掲示されてしまったのだからたまらない。

「消えていく中に入りたくなかったら、今、選ぶべき道は一つ。一生懸命に3S活動を行うことです」

保治の脳裏には田中テックの工場見学で見た光景が思い出された。
町工場とは思えない美しさ。
それは一種のショールームのようにも思えたものだった。

「3S? ……先生、3Sって何ですか?」

「整理・整頓・清掃のことです。それぞれの頭文字をとって3S活動といいます」

会場がざわざわとざわめく。

「整理・整頓・清掃って、小学生やないんやから……」

「そんなことより、儲かる方法を具体的に教えてくださいよ」

皆の気持ちは痛いほどわかる。
そんなことをやって、一体何になるというのか?
義己も反対したし、保治ですら、実際に田中テックの工場を目の当りにしていなければ、同じように不満を口にしていただろう。
高い金を払って雇った経営コンサルタントに肩すかしを食らった気持ちになるに違いない。

工場は汚いのが当り前。
掃除なんかするヒマがあったら、一つでも多くの製品を製造した方が儲かる。
それが町工場の経営者に共通する考え方だった。

「するもしないも、経営者であるあなた方次第です。でも、今それをやらないと、きっと5年後にあなたの会社はなくなっていると思います」