田中テックさんに触発されて経営コンサルタントの先生に指導をお願いしようと考えたのはいいものの、社長の保治も副社長の義己も、何をどう頼んでいいものか、お金も一体いくらぐらい掛かるものなのか、その頃は全く知らなかった。

田中テックさんに学ぶなら、それを指導した先生にお願いしよう。
値段が高いとは聞いているけれど、経営のアドバイスをするだけなんだから、たかがしれているだろう……と、たかをくくって直接頼んでみたところ、値段を聞いて保治は思わず椅子から飛び上がった。

「ええッ!? そんなに掛かるンでっか?」

コンサルタントから提示された金額は保治の予想をはるかに超えていた。
いくらなんでもその金額はないやろ……
一瞬、そう思ったが、保治ははたと考え直した。

そやけど、すごく優秀な社員を一人雇ったと思ったら、そんなもんか。
いや、それどころか、長い目で見たら安いくらいかもしれん。
外注先やと思うからべらぼうに高いと思うけど、この人が我社の救世主になってくれるんなら決して高い買い物やない。
金を渋って安い経営コンサルタントに頼んで、結局、役に立たんかったていうことにでもなったら、金をドブに捨てるようなモンや。
そんな金があったら、わずかでも社員の給料を上げてやった方がええに決まってる。
でも、この人は現実に田中テックさんの業績を伸ばしているし、信頼してもええやろ。
そうや。この人に頼むのが正解なんや。
……そやけど、義己は怒りよるやろなあ。

保治がぐるぐると思いを巡らせていると、経営コンサルタントは保治の心を見透かしたようにアドバイスを投げかけた。

「それじゃあ、仲間を集めてみたらどうでしょう?」

「仲間?」

「枚岡合金さんと同じような悩みを持った会社に声を掛けて、数社で勉強会を開くのです」

なるほど! と、保治は顔を輝かせた。
つまり、この経営コンサルタントの先生は枚岡合金と同じような規模の企業と共同で自分を雇えというのだ。
確かに、先生自身に払う報酬は高額でも、それを数社で負担しあったら、そんなに高い金額ではない。

「そんなことが可能なんですか?」

「ええ、もちろん」

「分りました! ほな、すぐに声を掛けてみます!」

これなら義己も納得してくれるに違いない。
賛同する企業をもう1社呼べば、金銭的な負担は半分に。10社呼べば10分の1になるのだ。
枚岡合金だけで先生を独占することはできないけれど、その代わり他社との交流も図れる。
その中で、自分たちが気づかなかったことや打開策を他社から学び取ることもできるかもしれない。