無駄なものを捨て、空間スペースを最大限に利用する。
そして、徹底的に掃除を行った。
「社長! 社長が工場の雑巾がけなんかするの、やめて下さい。そんなにキレイにしたいんやったら、社員にやらすか、掃除のおばちゃんでも雇ったらええでしょ?」
保治が自ら雑巾を持って拭き掃除をすることは、副社長の義己ですら、最初は反対だった。
「キレイにするだけでは意味がないんや。社長も社員も関係ない。ここは俺たちみんなの工場や。見た目だけキレイになっても、何の意味もない」
その言葉を聞いた義己は、次の日から雑巾を持っていた。
兄の真意はまだ分からない。
でも、やるからには「とことん」やる。
それは古芝兄弟共通の性質だった。
「社長、副社長、私らもやりますわ……」
最初は傍観していた社員たちも一人、また一人と拭き掃除の輪に加わってきた。
強制したわけではない。自分たちから参加してくれた。
最初は嫌々かもしれない。
社長と副社長が拭き掃除をしていたら、確かに手伝わないわけにはいかないだろう。
でも、最初はそれでもいい。
掃除の輪は次第に広がり、やがて毎朝10分の床磨きが枚岡合金工具の日課になった。
同じ床を皆で拭く。
これが団結なんだと義己は実感し、兄・保治の真意を理解した。
もちろん反発する者はいた。
慰安会の席上で副社長が社員と大喧嘩をしたのも、この時期である。
「そやけど、まだ何か暗いような気がするなあ……」
天井が映るぐらいに床面を磨いてみても、工場全体がくすんだような雰囲気に包まれているのは相変わらずだった。
「天井が映るぐらいに磨いても、その天井が薄汚れてたら一緒やわ。床もデコボコやし……」
そう思いたった保治は、大工道具と左官道具を揃えて、工場の大改装に乗りだす。